「AI で報告書を書けるようにしたい」という相談は、多くの場合、 AI の性能ではなく、型がないところで止まっています。 書く人によって形が違い、良し悪しの基準が言葉になっておらず、 材料が足りないときにどうするかも決まっていません。 その状態の業務を AI に渡しても、出てくるのは「それっぽい文章」だけです。
私はこの「型がない業務」を「型のある業務」に変える進め方を、 業務の型化工場と呼んでいます。業種を問わず、毎回同じ 7 つの工程で進めます。

先に、人と AI の分担を決めておく
7 つの工程に入る前に、どこを人が握り、どこを AI に任せるかを決めています。
| 人が握る | AI に任せる |
|---|---|
| どの業務を型にするかの判断 | 様式の再現 |
| 現場の暗黙知の聞き取り | 下書きの生成 |
| 合格の判定 | 項目定義の整理 |
| 定着までの伴走 | 検証用データの比較 |
| 出力の最終責任 | 記録と集計 |
左の列は自動化しません。ここが品質の源で、 同時に「AI で何でも自動に」と言わない理由でもあります。 7 つの工程のうち、工程 1・2・5・6 は人が主導します。
工程 1:止まっている一点を選ぶ
最初に型にする業務は、一つだけ選びます。 いくつも同時に始めると、検証も定着も中途半端になるからです。
選ぶときは、頻度・負担・様式の明確さ・判断のパターン・失敗の影響の 5 つを 1〜3 点で数え、合計 12 点以上を優先候補にしています。 最後の決め手は、責任者が「まずこれが楽になれば助かる」と言うかどうかです。
工程 2:説明より、実物を集める
型の品質は、聞き取りで集めた実例の量と質で決まります。 業務の説明を聞くより、実物を集めることを優先します。
- 白紙の様式(紙ならスマホで撮った写真で十分)
- 良い記入例を 3 件
- 差し戻された例、または良くない例を 3 件
- 書く前の材料(口頭のメモ、走り書き)
聞き取りの終わりは、材料から完成品までの「変換のルール」を、 担当者以外が説明できる状態になったときです。
工程 3:見慣れた様式を、そのまま再現する
現場が毎日見ている様式を、レイアウトごと再現します。 見た目が同じだと、現場は新しい道具だと身構えずに使い始めます。
あわせて、項目ごとの書き方のルールを表にします。列はこの 6 つです。
| 項目名 | 必須 | 入力元 | 書き方のルール | 文字数の目安 | 良い例 |
|---|---|---|---|---|---|
| 発生状況 | ○ | 口頭メモ | 時刻→場所→行動の順。主観の言葉を使わない | 80〜150 字 | 実例から 1 文 |
「入力元」が空欄の項目は、聞き取り漏れのサインです。工程 2 に戻ります。
工程 4:AI が同じ品質で出せる手順書にする
項目定義の表を、AI がいつでも同じ品質で下書きを出せる手順書(スキル)に変えます。 決めるのは、起動の条件・入力の受け方・変換のルール・禁止事項・不足時の対応・出力形式の 6 つです。
なかでも外せないのが不足時の対応です。 材料が足りない項目を推測で埋めると、一度で現場の信頼を失いかねません。 足りないときは空欄にせず、何が足りないかを質問させます。
工程 5:合格は、現場が決める
合格かどうかは、作った側ではなく現場の担当者が判定します。 過去の材料を入れて下書きを作り直し、実物と項目ごとに比べ、 担当者に実際の業務で使ってもらいます。目安にしているのは次の 4 つです。
- 手直しの時間が、手で書いていたときの 3 分の 1 以下
- 法定様式や監査対象の項目に誤りがない
- 推測で埋めた箇所がない(不足は質問として出ている)
- 担当者が実際の業務で 3 回使い、「次からこれで書きたい」と言う
具体的な基準は、案件ごとに先方と決めます。不合格なら工程 4 に戻ります。
工程 6:納品してから 30 日、使われ続けるかを確かめる
納品はゴールではなく、定着期間の始まりです。 使われ続けるかどうかは、最初の 30 日で決まります。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 初日 | 担当者と一緒に、実際の業務で 1 件書く。説明は紙 1 枚以内 |
| 1〜2 週目 | 使われた件数と手直しの内容を記録し、詰まった点はその週のうちに直す |
| 3〜4 週目 | 担当者以外にも使ってもらい、一人に頼った道具になっていないか確かめる |
| 30 日目 | 利用件数・削減時間・残った不満を確認し、続ける・広げる・終えるを決める |
工程 7:一件ごとに、3 つを残す
一件終わるたびに、型・事例・データの 3 つを残します。
- 型:業種に固有の部分と、どの業種でも使える部分に分けて蓄える
- 事例:業務がどう変わったかを、前後の時間と担当者の声で残す(匿名化し、掲載は許可を得たものだけ)
- データ:選定の点数、工数、合格までの修正回数、30 日後の利用件数
どの業種でも使える部分(入力の受け方、不足時の質問、検証の手順)が増えるほど、 次の案件の工程 3・4 が短くなります。
情報の取り扱いは、始める前に書面で決める
業務の書類には、個人情報や取引の情報が含まれる前提で進めます。 始める前に、次の 4 点を書面で合意しています。
- AI に入力してよい範囲(氏名や連絡先をそのまま入れるか、記号に置き換えるか)
- 材料・実例・作ったものの保存場所と期間、終了時の削除方法
- 部品・事例・データとして残してよい範囲
- AI の出力は下書きであり、提出・保存する内容の最終責任は先方の担当者が持つこと
まずは、止まっている一点から
7 つの工程の全体像は進め方のページにもまとめています。 30 分の有料相談では、工程 1 の「止まっている一点を選ぶ」を一緒に行います。
